われ/\》も其の勞働者と些ツとも違やしないぢやないか。下らぬ理屈《りくつ》を並《なら》べるだけ却《かえ》ツて惡いかも知れない。」
 藝術《げいじゆつ》の價値《かち》だの、理想《りさう》の永遠《えいえん》だのといふことを、毎《いつ》も口癖《くちぐせ》のやうにしてゐる友としては、今日の云ふことは何《なん》だか少《すこ》し可笑《おか》しい……と私は思ツた。
「けれども……、」と友は少《すこ》し考《かんが》へて、「僕等は迚《とて》も勞働者を以《もつ》て滿足《まんぞく》することは出來《でき》ない。よし僕等の生涯《しようがい》は、勞働者と比較《ひかく》して何等《なんら》の相違《さうゐ》がないとしても、僕等は常《つね》に勞働者的生涯から脱《だつ》して、もう少し意味ある、もう少し價値あるライフに入《い》りたいと希望《きぼう》してゐる。生れて人間《にんげん》の價値をも知らず、宇宙の意味をも考へないで、一生を衣食《いしよく》の爲《ため》に營々《えい/\》[#ルビの「えい/\」は底本では「/\」]として浪費《らうひ》して了ツたら、其は随分|辛《つら》いだらうが、高《たか》が些々《さゝ》たる肉躰上《にくたいじ
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