、あれを聽いてゐて、僕は身《み》につまされて何んだか泣《な》きたくなるやうな氣がしたよ。」
「然うかい、君も然うなのかい、」と私は引取ツて、「工場の前も幾度《いくたび》通《とほ》ツたか知れないが、今日|程《ほど》悲しいと感《かん》じたことは是《これ》まで一度《いちど》もなかツた。其にしても君、僕等《ぼくら》の一生《いつしよ》も好《よ》く考《かんが》へて見れば、あの勞働者なんかと餘り違《ちが》やしないな。」
「然うさ、五十|歩《ぽ》百歩《ひやくぽ》さ」と、友は感慨《かんがい》に耐《た》へないといふ風《ふう》で、「[#「「」は底本では欠落]少許《すこし》字《じ》が讀《よ》めて、少許|知識《ちしき》が多《おほ》いといふばかり、大躰《だいたい》に於《おい》て餘り大《たい》した變りはありやしない。口《くち》では意志《ゐし》の自由《じゆう》だとか、個人《こじん》の權威《けんゐ》だとか立派《りつぱ》なことは云ツてゐるものゝ、生活《せいくわつ》の爲《た》めには心《こゝろ》にもない業務《ぎやうむ》を取ツたり、下《さ》げなくても可い頭も下げなければならない。勞働者勞働者と一口に賤《いやし》んだツて、我々《
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