》たことまで空想《くうさう》して見た。
「何んだか悲《かな》しい唄ぢやないか。」といふと、
「然《さ》うだね。僕《ぼく》は何んだか胸苦《むなぐる》しくなツて來《き》たよ。」と儚ないやうな顏《かほ》をしていふ。
「何うして急《きふ》に舍《よ》して了《しま》ツたのだらう。」
「然うさね。」
其《それ》は永遠《えいえん》に解《と》けない宇宙《うちう》の謎《なぞ》でもあるかのやう。友と私とは首《くび》を垂《た》れて工場の前を通過《とほりす》ぎた。
「君《きみ》、此《こ》の頃《ごろ》躰《からだ》は何うかね。」と暫《しばら》くして私はまた友に訊《たづ》ねた。私|達《たち》は會《あ》ふと必《かなら》ず孰《どツ》ちか先《さき》に此《こ》の事を訊《き》く。一《ひと》つは二人|共《とも》躰に惡《わる》い病《やまい》を有《も》ツてゐるからでもあらうが、一つはまた面白《おもしろ》くない家内《かない》の事情《じゞやう》が益々《ます/\》其《そ》の念《おもひ》を助長《ぢよてう》せしむるやうになツてゐるので、自然《しぜん》陰欝《ゐんうつ》な、晴々《はれ/″\》しない、稍《や》もすれば病的《びやうてき》なことのみを考《かんが》へたり言《い》ツたりするのであらう。
「躰?」と友は些《ちよ》ツと私の方《はう》を見て、「躰は無論《むろん》惡《わる》いさ。加此《それに》此《こ》の天氣《てんき》ぢやね。」
「矢張《やつぱり》惡いのか。そりや可《い》かんね。何ういふ風《ふう》に?……矢張|何時《いつ》ものやうに。」
「然う。まア、然うなんだらう、頭《あたま》が變《へん》にフラ/\するし、其に胸《むね》が何うも。」
「痛《いた》むのか。」
「あゝ。」
「そりや困《こま》るな。」
頭の所爲《せい》か天氣《てんき》の加減《かげん》か、何時もは随分《ずゐぶん》よく語《かた》る二人も、今日《けふ》は些ツとも話《はなし》が跳《はづ》まぬ。
「躰も無論惡いが」と暫らくして友は思出《おもひだ》したやうに、「それよりか、精神上《せいしんじよう》の打撃《だげき》はもツと/\胸に徹《こた》へるね。」
「……………」
「あゝ、僕あもう絶望《ぜつぼう》だよ!」投出《なげだ》すやうな調子《てうし》で友は云ツた。私の胸は鉛《なまり》のやうに重《おも》くなツた。
「曩《さき》の勞働者の唄ね、君《きみ》は何う思《おも》ふか知《し》らないけれど
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