笑的に謂ツて、チラと對手《あひて》の顏を見る。そしてぐい[#「ぐい」に傍点]と肩を聳《そびやか》す。これは彼が得意の時に屡《よ》く行る癖で。彼の傍には、人體の模造――と謂ツても、筋肉と動靜脈《どうじやうみやく》とを示《み》せる爲に出來た等身の模造が、大きな硝子の箱の中に入ツて、少し體を斜にせられて突ツ立ツてゐる。それで其の飛出した眼球が風早を睨付けてゐるやうに見える。此の眞ツ赤な人體の模造と駢《なら》んで、綺麗に眞ツ白に晒[#底本では「洒」の誤り]《さら》された骸骨が巧く直立不動の姿勢になツてゐる。そして正面の窓の上には、醫聖ヒポクラテスの畫像が掲《かゝ》げてあツた。其の畫像が、光線の具合で、妙に淋しく陰氣に見えて、恰《まる》で幽靈かと思はれる。天氣の故か、室は嫌《いや》に薄暗い。雪は、窓を掠《かす》めて、サラ/\、サラ/\と微《かすか》な音を立てる……辛うじて心で聞取れるやうな寂《しづか》な響であツた。
風早學士は、此響を聞いても何んの興味を感ずるでも無ければ、詩情に動かされるといふことも無い。それこそ空々寂々《くう/\じやく/\》で、不圖《ふと》立起《たちあが》ツて、急に何か思出
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