したやうに慌しく書棚を覗き※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、224−上段29]る。覗き※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、224−中段1]りながら、ポケットから金《ゴールド》の時計を出して見て、何か燥々《いら/\》するので、頻にクン/\鼻を鳴らしたり、指頭で髮の毛を掻※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、224−中段3]したり、または喉《のど》に痰《たん》でもひツ絡《から》むだやうに妄《やたら》と低い咳拂《せきばらひ》をしてゐた。風早學士は、此の醫學校の解剖學擔任の教授で、今日の屍體解剖の執刀者だ。年は四十に尚《ま》だニツ三ツ間があるといふことであるが、頭は既《も》う胡麻鹽になツて、顏も年の割にしなび[#「しなび」に傍点]てゐる。背はひよろり[#「ひよろり」に傍点]とした方で、馬鹿に脚《コンパス》が長い。何時も鼠とか薄い茶色の、而もスタイルの舊い古ぼけた外套《オバーコート》を着てゐるのと、何樣な場合にも頭を垂れてゐるのと、少し腰を跼《こご》めて歩くのが、學士の風采の特徴で、學生間には「蚊とんぼ」といふ渾名《あだな》が付けてある。さて風采のくすむだ[#「くすむだ」
前へ 次へ
全43ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三島 霜川 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング