に傍点]學士が、態度も顏もくすむだ[#「くすむだ」に傍点]方で、何樣《いか》なる學士と懇意な者でも學士の笑聲を聞いた者はあるまい。と謂ツて學士は、何も謹嚴に構へて、所故《ことさら》に他《ひと》に白い齒を見せぬといふ意《つもり》では無いらしい。一體が榮《は》えぬ質《たち》なのだ。顏は蒼《あを》ツ白《ちろ》い方で、鼻は尋常だが、少し反《そ》ツ齒《ぱ》である。顏のうちで一番に他の注意を惹くのは眼で、學士の眼の大きいことと謂ツたら素敵だ! 加之《それに》其が近眼と來てゐる。妙に飛出した眼付で、或者は「蟹《かに》の眼」と謂ツてゐた。頭髮《かみ》は長く伸して、何時|櫛《くし》を入れたのか解らぬ位。其が額《ひたひ》におツ被《かぶ》さツてゐるから、恰で鳥の巣だ。
學士の顏や風采も榮えぬが、其の爲《す》る事も榮えぬ。教壇に立ツても、調子こそ細いが、白墨《チヨーク》の粉だらけになツた手を上衣《コート》に擦《こす》り付けるやら、時間の過ぎたのも管《かま》はずに夢中で饒舌《しやべ》ツてゐるやら、講義は隨分熱心な方であるが、其の割には學生は受ぬ。尤も學士には、些《ちよツ》と高慢な點《とこ》があツて、少し面倒な
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