、尚《ま》だ雪を嘗《な》めて來るのであるから、冷《ひや》ツこい手で引ツぱたくやうに風早の頬に打突《ぶツか》る。風早學士は、覺えず首を縮《ちぢ》めて、我に返ツた。慌てて後へ引返さうとして、勢込むで踵《きびす》を囘《かへ》す……かと思ふと、何物かに嚇《おどか》されたやうに、些《ちよツ》と飛上ツて、慌てて傍へ飛退《とびの》き、そして振返ツた。
其處には斑猫《ぶちねこ》の死體が轉ツてゐたのだ。眼を剥《む》き、足を踏張り齒を露出《むきだ》してゐたが、もう毛も皮もべと[#「べと」に傍点]/\になツて、半ば腐りかけてゐた。去年から雪の下になツてゐたものらしく、首には藁繩が絡《から》みつけてあツた。
一目見ただけで、風早學士は竦然《ぞツ》とした。そして考へた。
「此の猫だツて、誰かに可愛がられて、鼠を踏んまへて唸《うな》ツたことがあるのだ……ふゝゝゝ。」と無意味に、冷《ひやゝか》に笑ツて、
「ところが、ふとした拍子《ひやうし》で此樣な死態《しにざま》をするやうになツた……そりや偶然さ。いや、屹度《きつと》偶然だツたらう。何んでも生物の消長は、偶然に支配されて、種々《さまざま》の運命を作ツてゐるのだ
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