……俺が此樣な妙なことを考へてゐるのも偶然なら、此樣な事を考へるやうになツた機會も偶然だ。※[#「人」偏に「尚」、第3水準1−14−30、231−下段7]《もし》俺が此處で頓死したとしても、其も偶然だし!……」
 と、考へて來て、ふと解剖室の方を見る。破れた硝子《ガラス》に冷い日光《ひかげ》が射して、硝子は銅のやうな鈍い光を放ツてゐた。一平は尚だ窓から顏を出して、風早學士の方を見詰めて皮肉な微笑を漂《うか》べてゐた。
 風早は其と見て、「一平か。いや慘忍な奴さ。金さへ呉れたら自分の嬶《かゝあ》を解剖する世話でもするだらう。だが學術界に取ツては、彼樣な人物も必要さ。一箇人としては、無意識な、充《つま》らん動物だけれども、爲《す》る仕事は立派だ……少くとも、此の學校に取ツては無くてはならん人物だ。」
 此《か》くて彼は解剖室へ入ツた。
 解剖室の空氣の冷い! 解剖臺==[#2文字分のつながった2重線]其は角《かど》の丸い長方形の大きな茶盆のやうな形をして、ツル/\した。顏の映るやうな黒の本塗《ほんぬり》で、高さは丁どテーブル位。解剖臺のテーブルの上には、アルコールの瓶だの石炭酸の瓶だの、ピ
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