けづ》る。彼は其の或る空想の花に憧れて、滅多《めつた》無性《むしやう》と其の影を追※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、231−上段2]してゐた。而も彼の心は淋しい! そして眼に映る物の全てに意味があツて、疑が出て來て、氣が悶々してならぬ。
「俺は生れ變ツたのぢやないか。」と彼は頭を振ツて考へた。
「一體俺は何んだえ?」といふ疑も出て來る……而《す》ると熱《ほて》りきツてゐた頭が急に冷めたやうな心地もする。で、吃驚《びつくり》したやうに、きよときよとして其處らを見※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、231−上段10]しながら、何か不意に一大事件にでも出會《でくは》したやうに狼狽《うろた》へる。妄《やたら》と氣が燥《いら》ツき出す。
「何んだ? 何んだツて、俺は此樣なことを考へる……人間は智識の他に何も意味も無い價値《ねうち》も無い動物ぢやないか。人間の生活は、全く苦惱で而も意味は空ツぽだけれども、智識は其の空ツぽを充《みた》して、そして種々《さまざま》の繋縛をぶち斷《き》ツて呉れるのだ。で俺は出來るだけ智識を求め、馬より少し怜悧な人間にならうと思ツて、其を唯一の快樂ともし
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