《こゝち》もする。要するに雪解の時分の北國の自然は都《すべ》て繃帶されてゐるのだ。丁ど戰後の軍勢に負傷者や廢卒や戰死者があるやうに、雪解の自然にも其がある……柵が倒れてゐたり垣が破れてゐたり、樹の枝が裂けてゐたり幹が折れて倒れてゐたり、または煙突が崩れてゐたり小屋や小さな物置が壓潰《おしつぶ》されてゐたり、そして木立や林が骸骨のやうになツて默々としてゐる影を見ては、つい戰場に於ける倒れた兵士の骸《むくろ》を聯想する。其の林や木立は、冬の暴風雨《あらし》の夜、終夜《よすがら》唸《うな》り通し悲鳴を擧げ通して其の死滅の影となツたのだ……雖然《けれども》鬪は終ツた。永劫《えいごふ》の力は、これから勢力を囘復するばかりだ。で蕭然たるうちに物皆|萠《も》ゆる生氣は地殼に鬱勃としてゐる。
 風早學士は、其の薄暗い物象と陰影とを※[#眼偏に「句」、第4水準2−81−91、230−下段26]《みまは》して、一種耐へ難い悲哀の感に打たれた……彼自身にも何んの所故《わけ》か、因《わけ》が解らなかツたけれども、其の感觸は深刻に彼の胸を※[#「削」の偏は肖でなく炎、第3水準1−14−64、230−下段29]《
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