どよめ》き立ツて、わい/\謂《い》ひながら風早學士の後に從《つ》いて行く。
雪は霽《あが》ツて、灰色の空は雲切がして、冷《ひやゝか》な日光が薄ツすりと射す。北國の雪解の時分と來たら、全《すべ》て眼に入るものに、恰《まる》で永年牢屋にぶち込まれた囚人が、急に放たれて自由の體となツたといふ趣が見える。で其處らの物象が、荒涼といふよりは、索寞として、索寞といふよりは、凄然《せいぜん》として、其處に一種人を壓付《おしつ》けるやうな陰鬱な威力があツた。暗澹たる冬から脱却した自然は、例へば慘憺たる鬪に打勝ツた戰後の軍勢の其にも似てゐる。其處に何んの榮《はえ》も無く、全てが破壞されて、そして放ツたらかされて、そして取ツ散かされて亂脈になツて、尚《ま》だ何んにも片付けられてゐない。見るから無慘な落寞たる物情である。早い話が、雪といふ水蒸氣の變換は、森羅萬象《ものといふもの》を全く眞ツ白に引ツ包むで了ツてこそ美觀もあるけれども、これが山脈や屋根に斑《まだら》になツてゐたり、物の陰や家の背後《うしろ》に繃帶《ほうたい》をしたやうに殘ツてゐては、何んだか醜い婦《をんな》の白粉《おしろい》が剥げたやうな心地
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