《よろめ》いたが、ウムと踏張ツたので、學生は更に彈《はね》ツ返されて、今度は横つ飛に、片足で、トン、トンとけし[#「けし」に傍点]飛ぶ……そして壁に打突《ぶツつか》ツて横さまに倒れた。
 老爺は、其には眼も呉れない。入口に立塞《たちふさが》ツて、「お前さん達は、何をなさるんだ。」
 と眼を剥《む》き出して喚《わめ》く。野太《のぶと》い聲である。
 ガア/\息を喘《はず》ませながら、第二番目に續いた學生は、其の勢にギヤフンとなツて、眼をきよろつかせ[#「きよろつかせ」に傍点]、石段に片足を掛けたまゝ立往生《たちわうじやう》となる。此《か》う此の老爺に頑張られて了ツては、學生等は一歩も解剖室に踏入ることが出來ない。
 老爺は、一平と謂ツて、解剖室專屬の小使であツた。名は小使だが、一平には特殊の技能と一種の特權があツて、其の解剖室で威張ることは憖《なまじ》ツかの助手を凌《しの》ぐ位だ……といふのは、解剖する屍體を解剖臺に載せるまでの一切の世話はいふまでも無い。解剖した屍體を舊《もと》の如く縫合はせる手際と謂ツたら眞個《まつたく》天稟《てんぴん》で、誰にも眞似の出來ぬ業である。既に解剖した屍體
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