をすら平氣で而も巧《たくみ》に縫合はせる位であるから、其が假《よし》何樣《どん》な屍體であツても、屍體を取扱ふことなどはカラ無造作《むざうさ》で、鳥屋が鳥を絞めるだけ苦にもしない。彼が病院の死亡室に轉ツてゐる施療患者の屍體の垢《あか》、または其の他の穢《けがれ》を奇麗に洗ひ、または拭取ツて、これを解剖臺に載せるまでの始末方と來たら、實《まこと》に好く整ツたものだ、單に是だけの藝にしても他《ほか》の小使には鳥渡《ちよつと》おいそれ[#「おいそれ」に傍点]と出來はしない。恐らく一平は、屍體解剖の世話役として此の世に生れて來たものであらう。それで適者生存の意味からして、彼は此の醫學校に無くてならぬ人物の一人となツて、威張《ゐばり》もすれば氣焔も吐く。
一平の爲《す》る仕事も變ツてゐるが、人間も變ツてゐる、先づ思切ツて背が低い、其の癖馬鹿に幅のある體で、手でも足でも筋肉が好く發達してゐる、顏は何方《どつち》かと謂へば大きな方で、赭《あか》ら顏の段鼻《だんばな》、頬は肉付いて、むツくら[#「むツくら」に傍点]瘤《こぶ》のやうに持上り、眼は惡くギラ/\して鷲のやうに鋭い、加之《おまけに》茶目だ。
前へ
次へ
全43ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三島 霜川 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング