餘る生徒が、雁《がん》が列を亂したやうになツて、各自《てんでん》に土塊《つちくれ》を蹴上げながら蹴散らしながら飛んで行く。元氣の好い者は、ノートを高く振※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、223−中段18]して、宛態《さながら》に演習に部下でも指揮するやうな勢だ、てもなく解剖室へ吶喊《とつかん》である。何時《いつ》も自分で自分の脈を診《み》たり、胸をコツ/\叩いて見たりして、始終《しよツちゆう》人體の不健全を説いてゐる因循な醫學生としては、滅多と無い活溌々地の大活動と謂はなければなるまい。
 其の騷のえらい[#「えらい」に傍点]のに、何事が起ツたのかと思ツたのであらう。丁《ちやう》ど先頭の第一人が、三段を一足飛《いツそくとび》に躍上ツて、入口の扉《ドアー》に手を掛けた時であツた。扉を反對の裡《うち》からぎいと啓《あ》けて、のツそり[#「のツそり」に傍点]入口に突ツ立ツた老爺《おやぢ》。學生はスカを喰《くら》ツて、前へ突ン※[#あしへんに「倍」のつくり、第3水準1−92−37、223−下段8]《のめ》ツたかと思ふと、頭突《づつき》に一ツ、老爺の胸のあたりをどんと突く。老爺は少し踉
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