ちじる》しく鋭敏になツてゐた。で鈴の第一聲が鳴るか鳴らぬに、ガタ/\廊下を踏鳴らしながら、我先《われさき》にと解剖室へ駈付ける。寧《むし》ろ突進すると謂《い》ツた方が適當かも知れぬ。
解剖室は、校舍から離れた獨立の建物で、木造の西洋館である。栗色に塗られたペンキは剥《は》げて、窓の硝子《ガラス》も大分|破《こは》れ、ブリキ製の烟出《けむだし》も錆腐《さびくさ》ツて、見るから淋しい鈍い色彩の建物である。建物の後は、楡《にれ》やら楢《なら》やら栗やら、中に漆《うるし》の樹も混ツた雜木林で、これまた何んの芬《にほひ》も無ければ色彩も無い、恰《まる》で枯骨でも植駢《うゑなら》べたやうな粗林だ。此の解剖室と校舍との間は空地になツてゐて、ひよろり[#「ひよろり」に傍点]とした※[#木へんに「解」、第3水準1−86−22、223−中段10]《かし》の樹が七八本、彼方此方《あちこち》に淋しく立ツてゐるばかり、そして其の蔭に、または處々に、雪が薄汚なくなツて消殘ツてゐる。地は黝《くろ》ずんで、ふか/\して、ふとすると下萠《したもえ》の雜草の緑が鮮《あざやか》に眼に映る。此の空地を斜に横ぎツて、四十人に
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