かすると立停ツて人の顏を瞶《みつ》めながら、ヒヨイヒヨイ泥濘を渉《わた》ツて行く……さもなければ、薄汚ない馬が重さうに荒馬車を曳いてヒイ/\謂ツて腹に波を打せてゐるのが眼に映る。彼が毎朝大通で見るものは大概此樣な物に過ぎぬ。雖然《さながら》人間生活状態の縮圖である。
偶時《たま》にはまた少し變ツた物や變ツた出來事にも打突《ぶツ》からぬでは無い。鳥屋の店先で青《あを》ン膨《ぶくれ》の若者が、パタ/\※[#足扁に「宛」、第3水準1−92−36、228−下段18]《あが》いてゐる鷄を攫《つかん》で首をおツぺしよる[#「おツぺしよる」に傍点]やうに引ン捩《ねぢ》ツてゐることや、肉屋の店に皮を剥がれたまゝの豚が鈎《かぎ》に吊されて逆さになツてゐることや、其の店に人間の筋肉よりも少し汚ない牛肉が大きな俎《まないた》の上にこて[#「こて」に傍点]/\積上げてあることや、其の中の尚《ま》だ活きてゐる奴が二匹ばかりで、大きな石を一ツ大八車に載せて曳いて行くことや、其の後から大勢の人足がわい/\謂ツて騷いで行くことや、または街頭に俥《くるま》に挽《ひ》かれて板のやうにひしやげ[#「ひしやげ」に傍点]た鼠
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