崩れた土塀の中が畑になツたりしてゐる==[#2文字分のつながった2重線]横町へ出て、横町から大通へ出る。大通へ出ると、毎朝屹度山の手の方の製絲工場の汽笛が鳴ツて、通は朝の雜沓《ざつたふ》を極めてゐる。市場へ急ぐ野菜車の響やら近在から出て來た炭と柴とを付けた駄馬の鈴の音やら、頭に籠を載せた魚賣の女の疳走《かんばし》ツた呼聲やらがたくり[#「がたくり」に傍点]車の喇叭《らつぱ》の音やら、また何やら喚《わめ》く聲叱る聲、其等全く慘憺たる生活の響が混同《ごつちや》になツて耳に入る。其と同時に、土方や職人や商人や百姓や工女や教師や吏員や學生や、または小ツぽけな生徒などが、何れも憔《いぢけ》た姿、惶々《くわう/\》とした樣子で、幻影《まぼろし》のやうに霧の中をうごめい[#「うごめい」に傍点]て行くのが眼に映る。誰の顏を見ても、恍《とぼ》けてもゐなければ笑ツてもゐない、何か物思に沈むでゐるのでなければ、一生懸命になツてゐるか威張ツてゐるか、大概此の型に定《きま》ツてゐるから、何れも何か目的と意味を持ツて大眞面目であるに違ない。其の眞面目な人間の動いて行く中を、痩ツこけた犬が大地を嗅ぎながら、また何う
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