食を斷つといふことである。雖然《けれども》風早學士は、カラ平氣で、恰《まる》で子供がまゝ[#「まゝ」に傍点]事でもするやうに、臟器を弄《いぢく》ツたり摘出したりして、そして更に其の臟器を解剖して見せる。固《もと》より些《いさゝか》も無氣味と思ふ樣子もなければ、汚《きた》ないと思ふ樣子も無い。眞個《まツたく》驚くべき入神の妙技で、此くしてこそ自然の祕儀が會得《ゑとく》せられようといふものである。奈何《いか》に頭を熱《ほて》らせて靈魂の存在を説く人でも、其の状態を眼前《まのあたり》見せ付けられては、靈長教の分銅《ふんどう》が甚だ輕くなるこニを感得しなければなるまい。
風早學士は、單に此の屍體解剖の術に長《た》けてゐるばかりで無い。比較解剖の必要、または其の他の必要から、生體解剖の術にも長けてゐる。併し國家は、法律を以て、人間の生體解剖は禁じてある。それで生體解剖の材料は、兎とか猫とか犬とか鷄とか豚とか猿とか、先づ多くは小《ちい》ツぽけな動物ばかりだ。此の意味からいふと、風早學士は、屠殺者の資格も備へてゐると謂はなければならぬ。で或人が此の慘忍な行爲を攻撃すると、
「成程こりや矛盾《むじゆ
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