ぢやないか。罪惡の子とは、平ツたくいふと惡い奴だといふことだ……君等は此の大侮辱には歡喜して、解剖學者の侮辱でも無い侮辱に憤慨するのかえ。」
 そこで片一方が躍氣となつて、
「そりやクリストは救世主ですから、其位の侮辱をする權利があるでせう。」といふと、
「其んなら解剖學者だツて、宇宙の研究者なんだから、其位の……、侮辱でも無い侮辱をする位の權利がある譯ぢやないか。」
 此樣な事で、風早學士は何處までも人間の本體を説いて、解剖は決して死者に對する禮を缺くものでは無いと主張するのであツた。
 されば風早學士が、解剖臺に据ゑられた屍體に對する態度と謂ツたら、冷々たるもので、其が肉付の好い若い婦《をんな》であツても、また皺だらけの老夫であツても、其樣な事には頓と頓着せぬ。彼の眼から見た其の屍體は、其の有脊椎動物で眞の四足類で、また眞の哺乳類で、そして眞の胎盤類である高等動物の形態に過ぎぬので。それで魚屋が俎《まないた》の上で鰹《かつを》や鯛《たひ》を切るやうに、彼は解剖臺の屍體に刀を下すのであツた。其の手際と謂ツたら、また見事なもので、法《かた》の如く臍《へそ》の上部に刀を下ろす。人間の血は
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