無い。疑も無く我々と同じ種族で、甚だ小しやまくれた[#「しやまくれた」に傍点]、恐ろしく理屈ツぽい、妄《やたら》とえらがツてゐる人間で、巧く打當《ぶちあて》たら、何れも金モールの大禮服を着けて、馬を虐待して乘※[#「廻」の正字、第4水準2−12−11、226−中段25]すだけの資格があツたのだ。
 併し風早學士は、些《ちつ》とも其樣なことに就いて考へなかつた。其が設《よし》や何樣な人であツたとしても、彼の心に何んの衝動も感覺も無かツた。勿論其の人の運命や身分や境遇や閲歴に就いて想像を旋《めぐ》らすといふやうなことも無い。また其が貴人の屍體であツたとしても、賤婦野人の屍體であツたとしても、彼は其處に黒犬《くろ》と斑犬《ぶち》との差別を付けようとしなかツた。要するに都《すべ》て人間の屍體で、都て彼に解剖されるのを最後の事蹟として存在から消滅するものと考へてゐた。で解剖される人に向ツて、格別|儚《はか》ないと思ふやうなことも無ければ、死の不幸を悲しむといふやうなことも無かツた。彼の人の死滅に對する感想は、木の葉の凋落《てうらく》する以上の意味は無かツたので。
 そこで或る生ツ白い學生などが、
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