人生の縮圖が出來て、其處に小社會小國家が作られ、そして我々人間が祖先から傳へられた希望も欲望も習慣も煩悶も疑惑も歸趣も、そして運命をも、殆ど殘らず知悉《ちしつ》することが出來たかもしれぬ。解剖臺に据ゑられたんだからと謂ツて、人間が變ツて生れたのでも何んでも無い。矢張《やツぱり》我々が母の胎盤を離れた時のやうに、何か希望を持ツて、そして幾分か歡喜の間に賑《にぎやか》に生れたものだ。そこで其の最後は、矢張我々の先代が爲したやうに、何の意味も無く、また何等の滿足も無く、淋しい哀な悲劇であつた。彼等のうちには、戀に燃えて薄命に終ツた美人もあツたらう、また慾に渇《かわ》いて因業《いんごふ》な世渡《よわたり》をした老婆もあツたらう、それからまた尚《ま》だ赤子に乳房を啣《ふく》ませたことの無い少婦《をとめ》や胸に瞋恚《しんい》のほむらを燃やしながら斃《たふ》れた醜婦もあツたであらう。勿論小さな躓跌《つまづき》から大なる悲劇の主人公となツて行倒《ゆきだふれ》となツた事業家もあツたらうし、冷酷な世間から家を奪はれて放浪の身となツた氣の好《い》い老夫《おやぢ》もあツたらう。また活きてゐる間|溌溂《はつらつ
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