く二目と見られた態《ざま》ではない!
 植民地の風習というものは何故に、こうもいなせ[#「いなせ」に傍点]な職人の風俗を、泥溝《どぶ》からあげた死鮒みたいに、すっかり威勢のないものにしてしまわなければ承知しないのか!
 だからこそ、支那人に内地人の労働力が、邪魔っけな石塊《いしころ》みたいに、隅の方に押しこくられずにはいないのだ。洋服が決して、民族的矜持にはなりはしないのだ。気を付けろ!
 怒鳴るだけ怒鳴ると、左官も大連も、ゆで上げられた伊勢海老のように、曲がるだけ頭を股倉に曲げ込んで、ぬるぬると吐き出された肉片や、皿からこぼれ落ちたスープに辷べる土間に坐り込んでしまった。
 この死屍みたいに酔つぶれた酔どれを眺めると、赧ら顔の酒場の亭主が因業な本性を出して、不気嫌な声で怒鳴り出したものだ。まるで病み呆けた野良犬を追いまくるような汚ならしさで、支那語と露西亜語で喚めき立てた。商売気を離れると、こうも因業な表情になるものか、全く不思議な位だ。
「|出て行け《ゾバ》!」
 牛のように喚めき立てた。古綿をかぶったような髪の毛の小娘が、少しでも手をゆるめると尻の穴でも嘗めかねないほど、嫌に曲が
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