りたがる酔どれの首筋から両手一杯に、二人の洋服の襟を引きちぎる程引きずり出していた。
「お帰りなさいな」
小娘はそう云っているに違いなかった。娘という者は、強悪な親爺みたいに、獣のように悪態を吐く筈がない。
娘が少しでも、油断すると酔どれは自分の尻を嘗めようとした。もう何んとしても、彼奴等には、海泥のように性根がないのだ。
ウォツカの雫で濡れ放題のカウンターを、その団扇《うちわ》みたいな手で歪むほど打ちのめすと、尻尾を踏んづけられた狼のような唸り声をたてて、蹴倒した木椅子を両脚で突き飛ばしながら、亭主が巨大な図体を癇癪の筋だらけにして飛び出して来た。そして小娘の手から酔どれの襟首をひったくると、躄車《いざりぐるま》みたいに往来に引き出して行って、そして二人を同時に鉋屑のように抛り出した。
「|出て行け《ゾバ》!」
と、たんまり儲けたことは忘れて、支那語で酔どれをケン飛ばしかねない権幕で喚めいた。
大連は彼の愛するロシヤ人から、こんな待遇で酬いられたことを知ったら最後、シャベルでロシヤの国土を地球の外へはね出しかねない調子で地団駄踏んで口惜しがるに違いない。
(彼奴は、白のスパ
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