、ぐしょぐしょになって、而も余り大きくもない体格を引きずるように持て余まして、底のあいた編上靴で埃をまきたてながらよろめいて行った。すると、恰度彼のよろめいて行くアスファルトの大通りが、やがて二つに裂けて左右に岐《わか》れていた。その岐れ目の薄馬鹿の額のように間ののびた面積が、手際よく楕円形に積土《もりつち》されて、プラタナスの木株が植え込まれ、その上に四五脚の広告ベンチさえ曝《さら》されていて、この不体裁な大通りの致命的な欠陥を、その工夫が危く救いあげていた。この設計技師の苦心も、商いや仕事を抛り出してベンチの上に眠むりこけている不潔な苦力や路傍商人の不遠慮な侵入に他愛もなく踏みにじられていた。
若者はそこまでよろめいて行った時、ちょっと立ち停った。路を考えるようにも見えたし、また空いたベンチを捜し求めるようにも受取れた。だが、その何れでもなかった。彼の眼は、無料宿泊所の新らしい木札に、磯巾着のように吸いつけられたのだ! かすかではあるが、疲れ切った若者の顔には生色が動いた――その若者は木札の意味を読みとると、すぐに病院の柵に沿うて右側の路に折れて行った。
病院の柵が尽きると、埃
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