クーリー》が死んだように、ぶっ倒れていた。そして寝苦しく身悶えする肌に、食い散らされた西瓜や真桑瓜の種子が、おかまいなくこびりついた。
日幕《ひおい》を深くおろした商店は、まるで唖のように静まり返えって、あの業々しい、支那街に特有な毒々しい調子で響いている筈の算盤や銅貨の音さえも、珍らしく聞えて来なかった。幕の隙間からは、涎をたらして、だらしのない姿態で眠むりこけている店員たちの姿が見えた。蠅ばかりが、閑散な店の土間を一杯に、わんわんとかすかな唸りをたてて飛び廻っているだけだった。……
すると軈て、この熱射の街頭にぽつんと一つの影が現われた。その影は初めに、幅員の広い、ゆるやかな傾斜をもった大通りの果てに――恰度オレンジ色の宏壮な中国銀行の建物の下に、ぽつんと黒い一つの点になって出現したのであるが、その黒点が太陽の熱射の中を泳いで近づいて膨らみ切った時、それは日焼けのした、埃りまびれの若者が七月の太陽にゆだり切ってよろめいて来るのだった。噛み砕いた鉛筆の末端の様に、先端《さき》のほうけたステッキに、小さな風呂敷を結えつけて、それを肩にひっ担いでいた。その詰襟の黒ぽい洋服は汗と埃りに
前へ
次へ
全31ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
里村 欣三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング