べきものであるにしても、先づアリストテレスの論理とかカントの論理とかをよく研究することを勸めたい。その方が間違ひがなく、またそれが順序でもある。新しい哲學は何か新しい論理をもつて現はれてくるものであるから、論理の問題に踏みとどまつて深く研究するのは大切なことである。
 辯證法の最初の組織者はヘーゲルであり、辯證法を學ぶにはどうしても彼の書物に依らねばならぬ。その『論理學』の如き、ぜひ勉強すべきものであるが、なにぶん彼の書物は難解をもつて知られてゐる。そこでヘーゲルは何から入るのが好いかといふ質問によく出會ふ。比較的わかり易いものとして普通に彼の『歴史哲學』が擧げられるが、これも適當であるが、私はむしろ彼の『哲學史』を勸めたい。ヘーゲルの哲學史は、そのものとして今日も價値をもつてゐるばかりでなく、哲學は哲學史であるといふ立場からつねに哲學史的教養を豫想してゐる彼の哲學を理解するために、またおよそ辯證法的な物の見方を習得するために、初めに讀むに適當であると思ふ。ヘーゲルについて書いた多くの參考書を讀むよりも、たとひ難解であつても、ヘーゲルそのものを幾頁でも研究することが一層大切であるのを忘
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