った。
[#ここから2字下げ]
釈迦如来かくれましまして
二千余年になりたまふ
正像の二時はおはりにき
如来の遺弟悲泣せよ
[#ここから1字下げ]
釈尊はすでに入滅した、現在の我々はもはや釈尊に遺され捨てられてしまったのであると彼は嘆き悲しむのである。いたずらに過去を追うべきではない。またいたずらに未来[#「未来」に傍点]を憧れるべきではない。遠い未来に出現すべしと伝えられた弥勒に頼ることもやめねばならぬ。
[#ここから2字下げ]
五十六億七千万
弥勒菩薩はとしをへん
まことの信心うるひとは
このたびさとりをひらくべし
[#ここから1字下げ]
現在のこの現実が問題である。釈迦はすでに死し、弥勒はいまだ現われない。今の時はいわば無仏の時である。過去の理想も未来の理想も現在において自証されないかぎり意味を有しない。現在の現実の自覚における唯一の真実は現在がまさに末法の時であるということである。
[#ここで字下げ終わり]
 時代の歴史的現実の深い体験は親鸞に自己の現在が救い難い悪世であることを意識させた。しかも彼のこの体験を最もよく説明してくれるものは正像末の歴史観である。正像末三時の教説は
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