ころではよく御馳走になった。お二人とも酒がお好きで、私も酒が飲めるということが分ると、訪ねて行けばきまって酒が出るようになった。そうした座談の間に私は教室でよりも遙かに多く学ぶことができたのである。
 波多野先生からはギリシア古典に対する熱を吹きこまれ、深田先生からは芸術のみでなく一般に文化とか教養とかいうものの意味を教えられた。この二つの影響のほかに、第三のものとして特に記すべきものは坂口先生から受けた影響である。先生の『世界におけるギリシア文明の潮流』という書物を初めて読んだときの感激を今も忘れることができない。私は先生から世界史というものについて目を開かれたのである。当時の京都大学は哲学科の全盛時代であるとともに史学科の全盛時代であった。その後私が歴史哲学を中心として研究を進めるようになったのも、そうした学問的雰囲気の影響である。
      *
 西田先生から最も深い感化を蒙ったことは今さら記すまでもないであろう。あのころ先生は『自覚における直観と反省』を書いておられ、初めは『芸文』に、やがて創刊された『哲学研究』に、毎月発表されていた。先生の勉強ぶりは学生にもひしひしと感ぜら
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