わが青春
三木清

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)心霊術に凝《こ》り

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(例)[#地付き](『読書と人生』一九四二年六月号)
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      一

 去年の暮、ふと思い付いて昔の詩稿を探していたら「語られざる哲学」と題するふるい原稿が見付かった。百五十枚ばかりのもので、奥書きには「一九一九年七月十七日、東京の西郊中野にて脱稿」と誌してある。あのころは九月に新学年が始まることになっていたから。ちょうど大学の二年を終えた時で、私の二十三の年である。
 想い起すと、その夏、休暇を利用して東京へ出た私は、相良徳三と一緒に中野に小さな家を借りて自炊生活をした。今の文園町のあたりである。右の原稿はその時に書いたもので、私の生長の心理的過程を告白録風に記している。もとより人に示すべきものではないが読み返してみると自分にはなつかしいもので、青春の感傷や懐疑や夢を綴っている。「しんじつの秋の日照れば専念にこころをこめて歩まざらめや」、などと歌った若い私であった。あのころの中野にはまだ武蔵野の面影が存していた。私は一
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