思ふと、きつと、鳴る。僕は決して、避けない。逢ふて、今無いよ、困りますねえ、差押へでもし給へ。それだから、貴下《あなた》は困る。せめて利子だけでも――と、三人の高利貸が、競売にすると損だから、利子をとる事ばかりにかゝり出した。かうなると、こつちの方が強い。
大家の方は、十八ヶ月家賃をためた。僕が出入とも自動車だから、今に何んとか成るだらうと思つてゐる内に、そんなに、たまつてしまつたのである。家賃も、この位たまると、大家も出て行けと云はないし、こつちも、義理が悪くて動けない。
この時に、救つてくれたのが、三上|於菟吉《おときち》で「原泉社」といふ出版屋を二人で始めた。白井喬二の「神変呉越草紙」などといふ大衆文学の皮切りの作品を出したし、片岡鉄兵訳の、探偵小説も出した。所が、一向儲からない。その内に、と、思つてゐると、関東大震災だ。揺れやんで、市ヶ谷見附へ逃げて行つた時に、心の底から、
(やれ/\、せい/\した)
と、思つた。そして、これをいゝ口実に、大阪へ行つてしまつた。
菊池寛に、救済されたのは、この時分だ。僕は、着たつきり、女房も同然、それでも、この貧乏の時、高利貸からこそ金
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