し除けるという風説があるが、長幼軽重を論じるべき時代ではない。力のある者が、出て行くべき時勢になってきているのだ。そして、その気運は、斉彬公自ら、お作りになったのだ。それに、今日、その奸悪を、猶座右に、重宝視するなど、斉彬公御帰国の第一声として、わしは、彼奴らを除くことを、まず、進言したいのだ」
「それで、いろいろ、説が出ているが、わしは、矢張り、断だ」
と、高橋が、斬る真似をした。
「斉彬公に申し上げても、わしは、無駄だと思う。斉興公の処分なされたことを、すぐに取消して、井上出雲を召し返しなどしては、斉興公の罪を天下に示すようなものだ、という御意見はよく判る。斉彬公は、わしらに対して、お目にかけておられるように、斉興公には、もっと、御孝心の方だ。だから、この際一切を、公に知らさずに、吾々、死を以て、君側の奸を払おうと思うが、何うだろう」
「上方の有志も、同じ志だ。将曹らを討つのを機として、一挙に脱藩して、京へ集まろうというのだ。有村が、そのために、戻って来ておる」
皆が、語るべきことを語って、西郷の顔を見た。
「よかろう」
と、西郷が、頷いた。そして
「斬る外にあるまい」
と、いった。
「それで、同志の面々だが、今、血判した奴だけでこれだけある。この外に、西郷どんが、うんと云ったといや、何んぼ、ふえるか判らん」
吉井が、懐中から、書状を取出した。
「拝見しよう」
と、云って、西郷が、手を延した。
「集まったのう――大勢、集まったのう」
西郷は、微笑んで、連名を披げて行った。奉書に一人一人が、署名、血判をしていた。人々は、もう一度、自分達の署名、血判を見直そうと、頭を、その上へ集めた。そして
「俺の字は、小さくていかん。高橋のは、下手だが、元気がいい」
とか
「この血は、誰がこぼしたのだ」
とか、呟き合った。西郷が、人々の署名を読んで行くと
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堀仲左衛門 (伊地知貞馨)
岩下佐次右衛門 (子爵岩下方平)
有村俊斎 (子爵海江田信義)
吉井仁左衛門 (伯爵吉井友実)
伊知地竜右衛門 (伯爵伊知地正治)
税所《さいしょ》喜三左衛門 (子爵税所篤)
本田弥右衛門 (男爵本田親雄)
高橋新八 (後の村田新八)
奈良原喜八郎 (男爵奈良原繁)
野津七左衛門 (陸軍中将野津鎮雄)
仁礼源之丞 (子爵仁礼景範)
氷山万斎 (永山弥一郎)
野津七次 (侯爵野津道貫)
西郷竜庵 (侯爵西郷従道)
有村次左衛門
西郷吉二郎
山内一郎
有村如水 (後の国彦)
大久保一蔵 (利通)
樺山三円
奈良原喜左衛門
中原喜十郎
大山格之助 (後の綱良)
[#ここで字下げ終わり]
「よく揃うた、その代り――」
と、云って、西郷は、人々の顔を、見廻して
「もし、この企てが、近藤崩れのようになったなら、薩摩は、天下が取れんようになる」
「一蔵も、それを心配しておった」
「将曹や、平如き奴等二三人を討取ったがために、この有為の青年を、近藤崩れの時のように死なしては、何んにもならん。だから、討つのは、遺憾ないように、十分の人数と、十分の計とで行うて、上役人へ名乗って出るのは、人数を限らんといかん。皆が皆死んでは、第一、斉彬公に対して、不忠になる。わしが、名乗って出て、皆の罪を引受けよう」
「吉之助一人の仕業と、誰がおもう? 籤引《くじびき》にでもして、五人は、こしらえんといかん」
「そうじゃない」
と、西郷は、首を振って
「相手は、三人か、四人でないか。計で斬るに、一人で斬れんことがあるか。十人、二十人かかってもよいから、それを一人で斬ったように見せさえすればよいし、わしが、飽くまで一人だといえば、それで通してしまう――」
「いかん、いかん」
ど、高橋が、叫んだ。
「西郷どんの腕で、三人も、斬れるかい」
「吉之助を、下手人にするのは、いかん。此奴は、斉彬公に入用じゃ。籤引にしよう、籤引に――何れ、今夜集まろうから、その場で籤引にして、切腹する奴を――三人つくろう」
「三人もいらん。将曹、平、二階堂と、ぽんぽんと、舶来銃でやっつけて、知らん顔をしておるがええ。それでやかましゅうなったら、俺がやったと申して、切腹してしまえばよい。籤引も、くそもあるもんか」
「然し、それでは、論が了えん。今夜、韃靼冬《だったんとう》へ集まって、その上のこととしよう」
と、西郷が云った。
一人の浪人は、麻の襦袢を披げて、その背へ
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露と消え身は死するとも亡き魂は
千代|朝廷辺《みかどべ》を守り奉らむ
[#ここで字下げ終わり]
[#地から4字上げ]水戸浪士 三岡源次郎吉次
と、書いて
「これでよい」
と、云って、筆を置いた
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