とが、いっぱいに――天井から、植込みへ、離れの向うまで、溢れ出していた。

「騒がしいではないか」
 小太郎が、咎めるように云って、刀を置いた。
「勢いの赴くところ、かくの如きものだ」
「月丸を討取ったぞ」
「そうか? 何処で」
「叡山の――わしを救ってくれた、あの僧侶の所の――父の墓の前で、深雪と、庄吉とで、討取った」
「ふむ、あの二人で? よく、二人で討てたのう」
 益満は微笑した。
「月丸に邪心のきざしたのが、油断になっての。自分で、自分を殺したようなものだ。義観が、万事後を引受けてくれて――わしは、これから、牧の後を追うが、何か、耳に入っておらんか」
「京の藩邸を、二三日前に出たということは、聞いておるが――」
「わしも、それは聞いた。斉彬公の御代と決まっては、邸にも置いておけまいからのう」
「深雪に、あいつらは?」
「庄吉は、手を負ってのう、三人共、義観の庵室に逗留致しておるが、落合うところは、ここと決めておいた。もし、貴公の居る内に参ったなら、よろしく頼む。要件は、それだけだ。これから、牧の足跡を求めて――」
 小太郎は、そう云いながら、刀を提げて、立ちかけた。
「今度の牧の警固方は、三人と聞いたが、人情、紙よりも薄いではないか」
「国許の奴等に逢わんか、大分参っておるぞ。それに、他藩の志士もおる」
「誰々」
「伊牟田、平野、梅田と云ったような連中だが――」
「矢張り、人情紙の如きではないのか?」
 小太郎は、立上って、刀を差しながら、笑った。益満は首を振って
「いいや、代々上に立って、徒らに、高禄を食《は》んだ奴は、こうした激変の時代に当って、只、失わんことを恐れて、事大的になる。だから、紙となり、軽薄ともなるが、今集まっている代物の如き、もうこれより下れん、落ちられんというところの、底の底におって、反溌《はんぱつ》しようとしている奴等だ。この力は恐ろしいぞ。十分の闘力を、肚をもっていて、押しつけられていた奴等だから、風雲を得たなら、何処まで、登って行くかも知れん」
 二人が、話しておる間にも、二階では、吟声が、足音が、拍子が、轟いていた。
「所司代は、よく、黙視しておるの」
「もう所司代は無力だ。去年と、それだけ、時世が変った。この激変は、恐らく、斉彬公の明を以てしても、お判りにはなるまい。薩摩も亦、斉彬公の御代になって、何う変るか? 小太郎、早く牧を討って、早く、吾等の仲間へ加われ。天下は、吾々のものになるぞ。必ずなるぞ。薩摩は今や、天下を二分してその一を保つだけの実力と、勢望とがある。ここに集まっている他藩の人々の説を聞いても、斉彬公の御代になって、斉彬公が、討幕の師を起すとなれば、若者は、悉く脱藩して、斉彬公の許へ走るであろうという話だ。半分に聞いても、愉快な話ではないか。小太、いい日の下に、いい主の下に、生れたものだのう」
 小太郎は、立ったままで
「うむ」
 と、答えた。
「わしは、七八日、ここにおって、江戸へ戻ろうが、それまでに牧を討つといいのう。手を貸そうか」
「いいや、もう袋の鼠じゃ。早く討って、早く仲間へ加わろうかの」
「そうだ。お前にもだんだん世の中がわかってきたのう」
 益満は笑って、立上った。小太郎は
「少うし人間が変ったぞ」
 と、云いながら、振向いて
「御一同によろしく」
 と、いうと、出て行ってしまった。

「西郷どん、居るか」
 と、生垣の外で、声がした。
「居る」
 西郷は、机の前から、首を延した。生垣の外に、吉井仁左衛門、樺山三円、高橋新八の三人が立っていた。そして
「えらいことじゃが」
 と、叫びながら、生垣を手で押しつけ、袴を引っかけて小枝を折りながら庭へ入って来た。
「斉彬公の御帰国の一行じゃが――もう、福岡へ入っている」
「うむ」
「聞いておるまい。井上出雲からの、便りは――」
「うむ」
 三人は、縁側へ、腰をかけた。
「その斉彬公の御一行中に、西郷どん、何んと奇怪であろうがな、将曹も、平も、志津馬も入っておるというのじゃ。それだけでも、わしら、かっとしたのに、何うじゃ、井上出雲に御赦免が出ん――何う思う?」
 垣根の外に、又人影が見えて
「来とおるか」
 と、叫んで、堀仲左衛門と、岩下佐次右衛門とが、入って来た。
「斉彬公が、将曹を罰せん、という御心――いつか仰せられた、子は父のために痩す、という御孝心は、わしらとてよく判る。然し、それも、程々のものだ。見す見す、陰謀を企てた――それも、ただの陰謀ではない、御世継を呪殺するという悪逆無道の陰謀を企てた輩を、そのまま、重用していなさるとは、卑怯に似ている」
「大義、親を滅すということがあるが、この際、当家のために、天下のために、人心を一掃すべきだ。君側の奸を除いて、有為の士を登用すべきだ。わしら軽輩が、徒らに、長上を押
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