が相続しては、自分達の努力が、水の泡と、消える)
 と、いう感じで、胸を圧えつけられてしまっていた。
(斉彬が、相続すれば、当然、その反対派の吾々共を、処分するだろう。何う、処分しても――何んなに軽い処分でも――)
 将曹は、自分の位置として、斉彬のやり方として、斉興が、お為派に加えたような処分はしないとしても――
(役は変えられる、罷免される――命にも、石高にも別条は無いが――然し、現在の役を誰かに代えられたなら、それで、万事は、水泡に帰する)
 将曹は、自分達の計画した、斉彬の世嗣を、呪殺するということが、余りに、うまく運びすぎたことに、喜んでもいたが、その底では、薄気味悪くもあった。
(お家のために、その方がいい。斉彬を、相続させてはならない)
 と、いう信念が、相当に固く、あるにはあったが、呪殺という手段のことを考え、何も知らぬ幼児の、次々と、死に行く様を見ると、その死の――その幼児の怨みの幾分かは、自分へかかってくるような気がして、余りに、その死が、うまく運ぶゆえに、自分の命のことに対しても、気味悪さが、感じられた。そして、何《ど》っかに、悪いことをしているな、というような感じがあって
(お家のためだ――)
 と、思ってみても
(余り、上手に、事が運びすぎる)
 と、却って、不安になり
(ものは、満つれば欠ける、というが――)
 と、自分達の、陰謀が、いつか、破れるような気さえした。
「斯様《かよう》なことも、考えないでは、ござりませなんだが――」
 と、将曹が、呟いた。
「余り早すぎて――」
 お由羅は、黙ったままであった。
(斉興が、隠居をすれば、妾は、四国町へ下げられるかも知れぬ――下げられるだけならよいが、あの軽輩共は、殺しに来るかもしれぬ)
 お由羅にとって、斉興を隠居せしめて、斉彬を立てようとする幕府の圧迫が、こんなに強く来ようとは、考えられぬことであった。
(斉彬を、殺す外にない――)
 二人とも、そう考えはしたが、斉彬を殺すということは、同時に、自分らも、久光も、殺されて、島津の家が滅亡することであった。斉彬を殺したなら、軽輩の人々が、何をするか――その人々の気持は、十分、二人に判っていた。
(牧に命じて、呪殺を――だが、牧は、いつかの日、斉彬のような、心の強い方は、効き目がないと申していたが――それでも、牧の外に――)
 と、思うと
「牧は、何処に居りましょうかの」
「さあ――」
 将曹は、矢張り、腕を組み、首を傾けたままであった。
「捜して――」
「事ここに致っては、大殿に、飽くまで、隠居することを、拒絶して頂くの外に、ござりますまい。お方」
 将曹は、腕を解いて、じっと、お由羅の顔を見た。

「お上も、近頃は、すっかり、気が、弱くおなりなされてのう」
「さ、それを、寝物語で一つ――何んとか、それより外に、差しずめの方法として、ござりますまい。それに、何よりも困るのは――久光公の、兄|贔屓《びいき》――」
「それが、妾にものう」
 お由羅が、そう答えた時、遥かの外から
「御家老様へ申し上げます」
 という、女の声がした。
「何んじゃ」
 将曹が、大声で答えると
「久光様、お召しでござります」
 将曹は、暫く、黙っていたが
「只今参ると、申し上げておけ」
 そういって、振返って
「何しろ、幕府の方に於ても、手許《てもと》不如意《ふにょい》の上に、異国のことは、誰も、心得ておりませぬから、一にも、二にも、斉彬斉彬と、斉彬公を引出して、金と、智慧とを一時に、絞り取ろうと、幕府が必死になっているだけに、容易なことではござりませぬ。茶壺を出した上に、十徳を出して、二度も、隠居せよと――大殿も、意地になって、隠居するなど、気振りもお見せになりませぬ、と、今度は、お為派崩れを口実に、密貿易を口実に、何処までも、隠居をさせようと、この強硬手段に出る以上、ただ、頼むところは、大殿のお心の固さ一つ、それを固めるのは、お方の、その腕一つ――吾々のためではござりませぬ、当家の存亡にかかわること。何卒一つ、十分に――」
「妾も、それは、心得ますが、牧の行方を調べて、牧の意見――斉彬を、呪えるか、呪えぬか、何より、かより、それが一番大事なことゆえ、心利いた者を、すぐに、走らせてもらえませぬか」
「心得ましてござります」
 将曹は、暫く考えていたが
「こちらより、両三人の者を――お方には、誰か、心づいた者がおりませぬか」
「ここより人を出しては、目に立つであろうがな。それより、京か、大阪の邸の者に、頼んで――」
「いいえ」
 将曹は、首を振って
「京、大阪には、不逞者が、近頃うんと居りまして、却って、危うござります。斉彬を担ぎ上げて、幕府を倒そうなどと――この風説一つだけででも、幕府としては、聞きずてにならぬのを、知らぬ顔をし
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