に、殲滅《せんめつ》させようと、計画しておる。それと一緒に、江戸では――いろいろと、論も出たが、久光殿をばじゃな――この君、在ればこそ、じゃで、勿体ないが――」
左源太は、斬る真似をした。
「はっ」
「それで、何うじゃ、その役を勤めるか、但しは又、何か、よい工夫が、あるか? その談合のために、呼んだが、益満――国許では、赤山靱負殿も、このことには御賛成であるし、益満なら心丈夫だとの仰せもある。一つ、勤めてくれ。外に、この大役を安心して任せる者がない。恩賞としては、何れ、斉彬公御世継の上は、靱負殿よりの取計らいにて、三百石には取立てて得させる」
「有難く存じまする」
「早速承引してくれて、わしも嬉しい」
「いいや――」
益満が、こういって、膝へ手を置いて、名越を見た眼は、齢が上で、格が遥かに上の者までも、威圧するに十分なものであった。それが、町人姿になっても、明瞭《はっきり》と、現れていた。名越は
(又、一こね、こねるかな)
と、思って
「異論かの」
と、微笑した。そして、心の落ちつかんのを見せまいと、煙草入れを取上げた。
「過日、斉彬公の御前へ罷り出ました節、君より、天下の形勢に就いて、御言葉がござりました」
「わしも聞いた」
名越は、煙を、天井の方へ吹き出しながら
「それで――」
「その夜――いろいろと、思案仕りましたが、禁裏の御気配、京都へ集まっております浪人共の正論、引続く不作、窮民の増加、異国船の頻々《ひんぴん》たる来訪。又、オロシャの侵略――何んとなく、日本の四方、日本の上下に、不穏の気が充満して参っておりまする」
名越は
(そろそろ難かしい事を云い出しおったぞ。一を聞くと、十に拡げるのが、名人じゃ、この男は――)
と、思ったが、そうしたことは、斉彬公から聞いてもいて、朧げながら、自分も感じているので
「そう」
と、頷いた。
「それを処理する幕府として――人、策共に皆無でござりまする。金子が足りぬゆえ、町人より献金させよ、人がないゆえ、島津斉彬を、異国方に取立てよ、と、己を弥縫《びほう》するに急であって、政道を布く暇さえござりませぬ。近頃、天下に、密々と行われておりまする、幕府衰亡の取沙汰、これを、史上より見ましても、三百年を経れば、一新するのが、常道となっておりまする」
「その論もよいが、わしの、只今の――」
「斉彬公の仰せの如く、家中に党を立てて、争う機ではござりませぬ。敵は、久光殿でなく、お由羅殿でなく、徳川幕府――」
「益満っ」
名越は、煙管を、畳の上に投げ出して、鋭くいった。
「裏切る所存か」
「議論は、終りまで、お聞き願いとう存じまする」
益満は、身体も、睫毛も、動かさなかった。
左源太は、益満へ、鋭い眼を与えておいて、横を向いてしまった。益満は、ちらっと、それを見たが、平然として
「名越殿」
名越は黙って、益満の方へ振向いたが、顔を見たまま、返事をしなかった。益満は、その顔へ、笑いかけながら
「手前――女を、一人、助けねばならず、家も、国も、天下も――」
「余論を申すな。今の続きを申すがよい」
「これも、その続きの一つでござりまする。女は、常磐津の師匠で、富士春と申し、なかなか、あでやかでござりまするが――」
「それが、天下、国家と、何んの係りがあるのか?」
「酔うて枕す、美人の膝、醒めては握る、天下の権。楚の項羽が、虞美人を抱いて泣き、本朝では、源九郎と、静の故事《ふるごと》など――外に向っては、天下の経綸を論じ、且、行うのは、大丈夫《だいじょうふ》の本懐なり、又、使命でもござりまするが、内へ入って、喃々《なんなん》と、惚れた女の手玉にとられるのも、人間、男女の、生れた時よりの大道で、天下を救うのと、その是非、その大小、必ずしも、痴情を、卑しむことはできませぬ」
「それで――」
左源太は、うるさそうに、冷たく云った。
「それで――案じまするに、物に大小はござりませぬ。女を救うも、久光公を斬るも、徳川幕府を倒すのも、手前にとっては、同じ仕事でござりまして、しかも、これは、同じ時、一緒に、手をつけてもよろしく――久光公への悪逆をのみが、益満の仕事でなく、と申して、女のことばかりでもなく、天下の事のみでもなく、つまり、出でては、天下、入っては女、自由、自在、融通、無礙《むげ》に働きたいと、存じおりまする。従って、浪士と交って、京師へ参ることもござりますれば、女と、遊里に彷徨《さまよ》っておることもござりましょう。益満は、そんな人間だと思召して、万事、お任せ下さるならば、多少の日日《ひにち》はかかりましても、心ず仕遂げて御覧に入れまする」
「左様か――それでは、もう一度、皆の者と、談合してみよう」
「少し、寝言を申しすぎて、御意に逆いましたと見受けまするが、それ程の仕事ならば、某な
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