ように、燃え上っていた。いつの間にか、赤裸にされて、地の底の闇の中に、悶えている自分の姿が、見えてきた。
「綱手殿、何とした」
耳許で、袋持の声がした。
「はい」
いつの間にか、自分でも、判らないうちに、綱手は、袖を、顔へ当てて、泣き伏していた。
「困った女だのう」
と、いっている兵太夫の声が、聞えた。
「袋持、何か、訳があろうが、聞いてやるがよい」
「はっ――綱手殿、次へござれ」
袋持が、肩へ、手をかけた。
「参ります――ふと、いろいろの事を、思い出しまして、御眼を汚し、申訳、ござりませぬ」
綱手は、手をついた。
「何々、正気づけばよい。少し、血の道の気かの。はははは。嫁入すると癒る。心配致すな」
綱手は、立上った。
(死ぬ外はない)
と、思った。だが、すぐ
(一目、月丸様に、逢って――真偽を、ただして)
綱手は、袋持の後方から、廊下へ出ると共に
(月丸様を殺して、死ぬ――いいや、あの方は殺せぬ、自分一人で――いいや、それよりも、あの方が、よし、牧様の、お息子であっても、そうでないと、仰しゃって下さったなら――いやいや、牧様のお息子であっても、あの方の恋は、偽りの恋ではない)
綱手は、もがいた。真暗な中に、宙ぶらりになって、悶えていた。底には、醜悪な臭の火が燃えていた。
(あっ――)
綱手は、全身で、悲鳴を上げた。
(後悔するな――後悔するな、と、仰しゃった言葉――このことであろう――このことでないかしら、いつかは知れる身の上だと、思うて――そうにちがいない。後悔するな。後悔するな――)
綱手は、月丸の、その時の顔、言葉つきを思い出した。
「坐るがよい」
綱手は、袋持の声に、はっとして、頭を下げて、つつましく、坐った。
「綱手――お身は」
と、云って、袋持は、暫く、言葉を切った。綱手は、袋持など、何を云っても、何をしてもいいと思っていた。
(でも、月丸様は、自分の素性をかくして、妾の素性を知っていなさるのに――)
と、思うと、叡山の夜が、月丸の深い巧計《たくらみ》から出たようにも思えた。然し、綱手は、自分で、それを、打消した。そして
(仮令《たとい》、そうであるにしても――妾には、月丸様が、憎めない。仇敵《かたき》とは、仇敵のお息子とは思えない)
と、思った。
「飾るところなく、申せば――これは、某一存の推察でござるが、百城と、お身と、何か、お係り合いがござらぬか?」
綱手は、考え込んでいたが、百城という名に、はっとして、心を澄ますと、係り合いがないか、と聞かれて
「係り合いとは?」
「さ、それは、いろいろとあって、申せることも申せないこともござるが――」
「さあ――」
「某の無礼を、お咎めなければ申そうが」
「いいえ、咎めるの、何んのと――」
「では――」
と、いって、袋持は、じっと、綱手の眼の色を見ながら
「約束事でも、あるか、無いか――したか、せぬか」
綱手は、一寸、胸を、轟《とどろ》かしたが、もう、袋持も、邸も、女中頭も、兵太夫も――それから、世の中さえ、怖ろしくはなかった。
(死ねばよい)
と、決心していた。冷たい、微笑を見せて
「約束とは――」
「仮《たと》えば、夫婦《めおと》とか――」
綱手は、明瞭とした声で
「致しました」
袋持は、綱手の顔を、じっと凝視《みつ》めたまま、暫く黙っていた。
「真実?」
「はい」
「お身は、仙波の娘御。仙波殿は、牧を討つため斬死なされた方ではないか」
「はい」
「その娘御が、濫りに、男と契るでさえ、不孝、不義であるに、人もあろうに、父の仇敵の倅と、契って、それを、恥とは、心得ぬか」
綱手は、それで、地獄のような呵責《かしゃく》を感じているのであった。十分に、それくらいのことは、承知していた。自分一人の呵責だけでさえ、その弱い心を引裂かんばかりであるのに、その判りきったことを、又、他の人から聞きたくなかった。頼もしい同志の一人である、と信じていた袋持が、憎くなってきたし
(この男も、月丸のように※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]をつくのかも知れない)
と、思うと、世の中の、悉くの男が、呪わしくなってきた。綱手は、絶望的な反抗心に、燃え上った。
「心得ております」
「それで、何故に――」
「これも、運命《さだめ》で、ござりましょう」
「運命? 奇怪な――奇怪なことを申す。素性も、碌に判らぬうち、肌を許して、その不行跡を、恥じさえせず、運命?――不埓なっ、何を申す」
袋持は、顔を赤くした。
「暫く待て、百城を、連れて参る。百城は、恥を心得ぬ奴ではあるまい」
袋持は、口早に、鋭く、こういって、立上った。綱手は、眼を閉じた。
(お父様、冥途で、お詫び、申しまする)
涙が、又、湧き上ってきた。
「百城――女は、契ったと申
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