ら振りかけた。そして、じっと凝視めていたが、小さい火が、ぼっと、立っただけで、何んの匂もしなかった。仲太郎は、眼を閉じて、俯向いた。そして、指を組んだまま、暫く、身動きもしなかった。
 護摩木が、だんだん燃えつくしてきて、焔も、煙も、小さく、薄くなってきたが、仲太郎は、まだ、瞑目したままであった。
 部屋の隅に坐っていた、黒衣をつけた二人の家来が、互に眼を見合せてから、ちらっと、仲太郎を見た。それと同時に、お由羅も、珠数を、左右へ劇しく振って、眼を開いた。そして、首を一寸、曲げて、火炉の中の火の消えかかっているのと、仲太郎の姿とを眺めて、家来の方を見た。家来も、お由羅を見て、眼が合った。暫く、三人は、仲太郎を、じっと凝視めていたが
「先生」
 と、お由羅が、声をかけた。だが、仲太郎は、俯向いたままであった。お由羅も、黙っていた。
 炉の中の火は、すっかり消えて、残り火が、ほのかに明るいだけであった。部屋の中の、薄い煙は、戸惑いしたように、天井を、襖の上をうろついているだけで、画像の姿も、朧げにしか見えなくなった。
「先生――如何なされました」
 お由羅が、こういうと、仲太郎は、静かに首を上げた。そして、黙って、壇を滑り降りて、沈鬱な顔をしながら
「暫く、行を廃すと致しましょう」
「ま――何んと、なされました」
 牧は、青衣を、静かに脱いで、家来に渡しながら
「恩師の、逆修《ぎゃくず》がござります」
「加治木玄白の?」
「左様」
 牧は、そう答えて
「行け」
 と、二人の家来に、顎で指図した。二人の家来は、襖を開けて、次の間へ去った。煙が、二人を追うように、出て行った。牧は、壇のところへ立ったまま
「祈って、祈れぬことはござりませぬ。さりながら――」
 首を傾けて、暫く、無言であった。
「さりながら?」
 と、お由羅は、催促した。
「さりながら、ここで、某、精魂を傾けますと、恩師の命を縮めまする」
「玄白の?」
「左様」
「それで?」
 牧は、お由羅を、正面から、睨みつけるように、鋭く見下ろした。お由羅も、同じように、見上げた。
 そのお由羅の眼の中には、いつものお由羅のやさしさが消えて、女性のもっている悪魔の性質が、獣の精神と、一緒になって、光っているような感じのする凄さが、現れていた。

「憚りなく、申せば――某《それがし》修法を行う前に、申し上げたる如く、仮令、御幼少の方とは申せ、某にとっては、天地に代え難き、御主君にござりまする。その御主君の命を縮め奉りますからは、元より一命は無き所存――さりながら、某が、お断り申せば、毒薬、刺客、何れの手でかによって、お仕遂げに相成りましょう以上、呪殺申すよりは、証拠も残り、仕損じることもあり――もし、それが、発覚する上に於ては、御家の大事、その騒乱は、恐らく御家始まって以来《このかた》の騒動となり、それこそ、島津の荒廃となり申しましょう」
 牧は、静かにこう云って、いくらか、険しくなくなった眼を、未だ、お由羅の正面へ向けて
「依って、某、命に代えてお引受仕りましてござります。然し――某は、兵道を以て立つ者、兵道を惜む念において、人に譲らぬのみか――好機――好機来、兵道の真価を示す時節来、何れは、お命の縮む御幼君――この大任を果せば、兵道無用の悪評の消ゆるは愚か、島津重宝の秘法として、この軍勝図は、再び世に現れましょう――某の面目は、とにかくとして、兵道家として、千載一遇の機――よって、命をかけ申しましたが――もし、ここで、恩師と、呪法を争えば、必ず、一方は、倒れまする。老いたりと雖も、玄白斎先生の気魄、霊気は、凝って、天地を圧するの概――これを破れば、老師を倒し、某とても、三年の間は持ちますまい。もし、某死し申して、余の――これから御出生の御幼君達が、余人の手にて、殺害されますならば、前申しましたる如く、御家の大事、又、兵道の絶滅、逸《はや》れば、即ち、二害あって、一利も無し――よって某、今宵より、修法を廃し、老師の霊気の散消するをまって、と――」
「よく判りました。して、その期限は?」
「霊気は、有にして無、無にして有、その消滅は、対手の精気により、場所により、齢により、微妙、精妙。ただ、ただ、老師の、肉体の力が、某の力に打ち克つか――如何。勝負はただこの一点、霊魄の強弱も、ここにかかっておりますが――散消の期は――」
 牧は、瞑目した。部屋の中は、小さい燈明の明りだけになった。牧の影が、大きく、襖に、ぼやけて揺いでいた。
「半ヶ年――」
「半ヶ年?」
「御幼君、肌つきの布に、悪血をそそいで祈りますれば、三ヶ月――」
「肌つきの?」
「左様」
「では、肌着を取りましょう」
 牧は、眼を開いて、じろっと、鋭く、お由羅を見た。お由羅は、壇上の道具を、じっと見ながら、微笑して
「丁度、そ
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