い》を置いてあった。
 部屋の壁には、青地に四印|曼荼羅《まんだら》を描いた旗と、蓮華広大曼荼羅を描いたものとを掛けて、飯食を供し、旛《はた》の上方には、加治木玄白斎が、自分の血で、三股金剛杵を描き、その杵の中に、一宇頂輪の真言を書いた。玄白、自らの生命を賭した呪術である。
 和田仁十郎以下の門人達は白衣《びゃくえ》を着て、その旛の下、壇の周囲に坐して「大威怒鳥芻渋※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]儀軌《だいぬちょうすうじゅうまぎき》経」、「仏頂尊勝陀羅尼」、「瑜伽《ゆか》大教王経」、「妙吉祥平等観門大教主経」等の書巻を膝の上にもって、黙読していた。
 加治木玄白斎は、白衣をつけて、暫く、座所で瞑目してから、塗香を、三度ずつ頂いて、額と胸とへ塗りつけた。それから、右手の護摩木長さ一尺二寸、幅三指の――紫剛木、旃壇《せんだん》木、楓香木、菩提樹を取って、炉の中へ積上げ、その上に、小さい杓で、薫陸《くんろく》香、沈香、竜脳、安息香の液をそそいだ。そして、和田が、大威徳天の前にゆらめいている浄火からうつして来た火を差出したのをとって、護摩木の下へ入れた。そして、口で
「※[#「田+比」、第3水準1−86−44]廬遮那《びるしゃな》如来、北方不空成就如来、西方無量寿仏、金剛|薩※[#「土へん+垂」、第3水準1−15−51]《さった》、十方世界諸仏、世界一切の菩薩、智火に不祥を焼き、浄瑠璃の光を放ち、諸悪鬼神を摧滅して、一切の三悪趣苦悩を除き、六道四生、皆富貴延命を獲させ給え、得させ給え」
 と、誦した。そして、少しずつ燃え上ってくる火を見て
「火相、右旋――火焔直上」
 と、叫んで、合掌した。
「火焔の相を象耳に、火焔の色を大青宝色に、火の香気を優鉢羅《うばら》華香に、火の音を、天鼓になさしめ給え。南無大日如来、お力をもって、金翅難羅竜を召し、火天焔魔王、七母、八執曜、各々力を合せて御幼君のために、息災、延命の象を顕現なさしめ給え」
 こういってから、もう一度、塗香を塗り、香油をそそぐと、炉の中の火は、焔々として燃え上り、紫色の煙が、天井を這い出した。
 門人達は、低く、経文を誦して、師の呪法を援け、玄白斎は、右手に、杓を、左手に、金剛|杵《しょ》を執って、瞑目しつつ、無我無心――自ら、日輪中に、結跏趺坐して、円光を放ち、十方の諸仏、悉く白色となって、身中に入る、という境地で入りかけた。
 焔は、青色を放って燃え上りつつ、少し左に、右に揺れながら、時として、真直ぐに立ち、香を放ちつつ、いろいろに聞える音を立てた。
 暫く、瞑目していた玄白斎は、眼を開くと共に、大音に
「焔の相は?」
 と、叫んだ。火焔は、大きく象の耳のように、ひらひらと燃え上り、消えては、同じ形に燃え上った。門人達は、誦経の声を少し大きくした。そして、一斉に、焔を見た。

 玄白斎が、秘呪を行っている次の間には、家老島津壱岐等の人々が、言葉静かに、お由羅への対策を話していた。それら、斉彬擁護派の人々は
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家老     二階堂|主計《かずえ》
町奉行、物頭 近藤隆左衛門
物頭     赤山靱負
町奉行兼物頭 山田一郎右衛門
船奉行    高崎五郎右衛門(高崎正風の父)
屋久島奉行  吉井七郎右衛門
裁許掛見習  山口及右衛門
 同     島津清太夫
兵具方目付  土持|岱助《たいすけ》
広敷横目付  野村喜八郎
郡見廻    山内作二郎
地方検見   松元一左衛門
琉球館掛   大久保次右衛門(大久保利通の父)
広敷書役   八田喜左衛門(後の八田知紀)
郡奉行    大山角右衛門
諏訪神社宮司 井上出雲守
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達で、無役、軽輩の人々は、別に玄関脇の部屋に集まっていた。
 次の間からは、玄白斎の振っている金鈴の音が、時々微かに洩れて来た。
「わしは――追つけ、斉興公が御帰国になろうから、その砌に、吉利、平、将曹、豊後などを、邸ぐるみ、大砲にてぶっ壊すのがよいとおもう――」
 近藤隆左衛門は、こう云って、懐から一通の書面を取出した。
「これは、斉彬公からのお便りじゃ。読み上げる――
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将(将曹)之調(調所)より勘弁のよし、尤もに候、将は随分と心得も有之ものにて御座候|而《て》、悪《にく》み候程のものにて之無様に被存候、御前(斉興公)之御都合之言に言れぬ事も有之、将之評判|無拠《よんどころなく》請け候儀も有之候、近(近藤隆左衛門)等の如く悪み候而は、不宜《よろしからず》、此処はよく心得可申候――
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 御大腹の君として、たとい、将曹如き奸物にもせよ、こう仰せられるのは、われら家来として、ただ、感佩《かんぱい》の外に無いが、事による。斉彬公が、
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