に押されるのは当然で、宣伝もしなければ、陳列法の善悪も判らなくて、商売が繁昌したら、アメリカ商人は、とっくに、破産しているだろう。
 しかん香から南には一軒も無い。八幡筋を西へ曲ると、古本屋の荒木が、飾窓を、窓らしく扱っている。小大丸は、銀座の越後屋と同じ道を踏むのでは無いかしら? 品物に珍らしいのが無くなってきた。
 それで私は、大丸と、雑誌屋と、荒木と、丹平と、それだけ以外で決して買物をした事はないが、又実際、心斎橋で白狐の襟巻も、気の利いたウォッチリングも、マイ・ミキスチュアも、無いのだから仕方がない。確に、恋人をもつなら大阪の方が経済的である。三十八円の樺太《からふと》狐でも狐で、八十円のカムチャツカ狐も狐なら、二百円の白狐でも狐である。
 東京の女は、少し気が利いていると(或は、生意気だと)、ハンドバッグ一つ買うにも、鳥居屋へ行って、裂地から金具まで註文をするが、大阪の女は、こういうことを知らないだろう(大阪の男達よ喜ぶがいい。私の友人は最近鳥居屋へ恋人と同行して予算の三倍を費した。そして実はその二倍半の金しか無かったので、そっと私へ救済してくれと電話をかけてきた。東京の女は
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