何物も目につかなかった。船中の人々についてはすっかり得心が行っていたし、ハーウィッチから乗り込んだ人も、途中から乗り込んだ人もすっかりで六人きりということはたしかだった。終点まで行《ゆ》くつもりの、小柄な鉄道官吏、二つあとの停車場でのった三人のかなり小さい市場商人、それから小さいエセックスの町から乗り込んだこれも小柄な寡婦、最後にもう一人エセックス州の小さい村駅《そんえき》で乗り込んだローマン・カトリク教の僧侶。最後の場合には、ヴァランタンはあきれ返って、もう少しで笑い出すところであった。その小さい僧侶は、東方人の平民の代表とも言うべきもので、ノーフォークの団子のように円くて鈍感な顔をして、その両眼は北海のように空っぽだった。しかも彼が持っている数個の茶色の紙包みを荷厄介《にやくかい》にしていたのだった。聖晩餐大会はきっと、沈滞した田舎から、こうした掘り出された土竜《もぐら》のような、目の見えない、どうにも仕様のない生き物を吸い寄せたのに違いなかった。ヴァランタンは厳しいフランス流の無神論者であり、僧侶に対しては何の愛着も感じなかった。しかし、彼は彼等を憐んではいたのだ。そしてこの僧侶
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