ということである。また、彼が運搬自在の郵便箱を発明して、それを静かな郊外の辻に立て、よその人が為替などを投函するのを失敬したということも確かである。終りに、彼は驚くべき軽業師として知られていた。彼の巨大な体躯にもかかわらず、彼は蟋蟀《こおろぎ》のように飛び、また猿《ましら》のように樹上に消え失せることが出来たのだ。それゆえ、かの大ヴァランタンがフランボー捜索にかかった時にも、たとえ彼を発見しても、それで、この冒険が片づくまいという事には充分気づいていたのだった。
 しかし、いかにして彼はフランボーを発見したものだろうか? この点では、大ヴァランタンの考えも、なお決定してはいなかった。
 だが、いかにフランボーが変装に妙を得ていても、ごまかすことの出来ない点があった。それは彼のずば抜けた身長だった。もしヴァランタンの機敏な眼が、丈《せい》の高い林檎売の女であれ、また長身な衛兵であれ、またたとえそれがたよやかな公爵夫人であったにしても、彼はきっとその場を去らせず逮捕したに違いない。しかし、彼がハーウィッチから乗り込んでこの方、麒麟が化けた猫を見出せなかった如く、フランボーが変装したと覚しい
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