るので袖のところがふくらんでいたからじゃ」
「畜生」とフランボーは叫んだ「何だってお前は腕輪のことなんか知ってやがるんだ?」
「おお御存知の通りのお仲間からじゃ」とブラウンは意味もなく眉をうごかして言った。「わしがハートルプールで副牧師をしていた時の事じゃ。その時いぼのついた腕輪した仲間が三人居たのだ。だからわしははじめっから貴公を疑ったのじゃ。お解りかな? わしはあの十字架を無事に届けにゃならん。わしは貴公に注意していた。御存知かな。それから貴公が包みをすり替えたのを知ったのじゃ。そこでわしがまたすり替えおったよ。お解りにならんかな? それからわしはそれを途中に置いて来たのじゃ」
「置いて来たって?」とフランボーがくり返した。そしてこの時始めて、彼の勝誇った声に何か新らしい調子が加わった。
「左様、まあその通りじゃ」と小さい僧侶はどこまでも落着いて言った。「わしはあの菓子屋へ戻ってな、わしが包みを忘れやしなかったかとたずねてな、もしあったら送って下されと、宛名を置いてかえったのじゃ。実は何も忘れはせなんだ。二度目に行った時に置いて来たのじゃ。今頃は、ウェストミンスターに住んでいる友人
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