悦で叫んだ。
「まったく、お前は道化芝居そっちのけのお人好しだな。たしかだともよ。俺はお前の大切な紙包の偽物をこしらえたのよ。もうお前は偽物をつかんでるんだぜ。それで俺が本物の宝石を持ってるんだ。古い手さ、なあ師父ブラウン――古い手だともよ」
「いかにも」と師父ブラウンは言った。そしていかにも不思議な訳の解らぬ手つきで頭髪をなぜた。「いかにも、わしも以前に聞いたことがあるて」
 この言葉を聞くと大賊は興味を覚えて、田舎僧侶の方に身を寄せた。
「お前が聞いたことがあるって? どこで聞いたんだ!」と彼は問いかけた。
「もちろん。名前は言えないがな。その男は懺悔者で、およそ二十年間も茶色の包をすり替えて、それで立派な生活《くらし》を立てて来たのだ。ところでじゃ、おわかりかな。貴公を疑い出した時にわしはその男のいつもの手を思いだしたじゃ」
「俺を疑い出したって」と、賊は真剣になってくり返した。「お前は俺がお前をこんな淋しいところに連れて来たので、俺を疑い出したんだな?」
「いやいや」とブラウンは弁解めいて言った。「わしは始めて貴公と会った時から疑ったのじゃ。それは貴公がいぼのついた腕輪をしてい
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