則と少しでも違うと思ってはならんのだ。あすこの猫眼石《オパール》の平原にも、真珠でちりばめた断崖の下にも、貴公は必ずや『汝、盗みするなかれ』の禁札を見まするぞ」
ヴァランタンは、この一生涯に始めての馬鹿げた大失敗から、落ち込んだこの窮屈な姿勢から逃げ出そうと、もう身がまえるばかりだった。が、高い方の僧侶がだまっている中《うち》に、何となくあいつの答えを聞いてからにしようという気になった。遂に彼が話し出した、頭を垂れ両手を膝にのせて彼は簡単にきり出した。
「なるほどな。だがわしはやはり、地球以外の世界はおそらく我々の理性よりずっと高いところにあるものだと考えますな。天国の神秘は量ることが出来ませんて。わしはただ頭《かしら》を垂れることを知るのみですぞ」
それから、彼はちょっと眉をよせて、しかし態度や声の調子は少しも変えずに、つけ加えた。
「貴公の青玉《サファイヤ》の十字架を下さらんか。どうだな? 幸いあたりに人も居らん。わしは貴公を藁人形のように八つ裂きにも出来ますぞ」
少しも変っていないその声や態度は、その話の変化に、かえって奇妙な恐ろしさを与えた。それにもかかわらず、宝物《ほう
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