を肯定するのじゃ」
 この時、相手の僧侶は、厳粛そうな顔を上げて星空を仰ぎながら言った。
「おお、しかし誰かこの無限の宇宙を――?」
「無限とは、ただ物質的にじゃ」と小さい方の僧侶が彼の身体《からだ》を廻して言った。「真理の法則をのがれると言う意味の無限ではないて」
 ヴァランタンは木かげにいて腹立たしさに彼の指をやけにこづいた。彼はまるで自分の下らない当推量のためにこんな馬鹿々々しい老僧の哲学話をきかされているイギリスの探偵達がうしろであざ笑っているような気がした。
 ヴァランタンは癇癪を起したので高い方の僧侶の答をきき落して、彼が再び耳にしたのは師父ブラウンの話だった。
「理性と正義はあの空の涯《はて》の淋しい星をもつかんでいますぞ。あの星を御覧なされ。まるでダイヤモンドか青玉《サファイヤ》のようには見えんかな? おのぞみなら一つ気ままな植物学なり地質学なりを応用してはいかがじゃ。磐石《ばんせき》の幹に宝石の葉のついた有様を考えて御覧じろ。あの月が一個の青い月だと考えてみられい。一つの大きな青玉《サファイヤ》じゃとな。が、しかしじゃ、そうした勝手な天文学が、行為の上の理性と正義の法
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