れたままで話している。あたかも自分は星を見るに足らないと言うように。しかしともかくも、伊太利《イタリー》の僧院に行ったにしても、またスペインの大本山を訪れたにしても、これほど真実に坊さんらしい会話は聞かれそうにもなかった。
 最初ヴァランタンが耳にしたのは、師父ブラウンの話の終りの一節だった。それはこう結んだ。「……諸君の天国と言う言葉によって、中世紀に人々が考えていたのは、全く不滅なものですぞ」
 大きい方の僧侶はうなだれた彼の頸《うなじ》で、うなずいて見せてから言った。
「御もっともじゃ、近代の不信心者共は、何かと言うと彼等の理性に訴える。だがあの何億という星の世界を見つめて、この我々の住む地上に、人間の理性で推し量られんものがあるということを感ぜぬものがあるだろうかな?」
「いやいや」と他の僧侶が言った。「理性は常に正当なものじゃ。わしだとて、世の中の人々が、教会は理性の価値を低めるというて、非難するのはよく知っておりますぞ。だが、これは全然反対じゃ。この地上においてのみ、教会は理性を真に最高のものとするのですぞ。この地上においてのみ、教会は神御自身も理性によって繋がれたもうこと
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