形をした物淋しい岳《おか》の出っぱりを縫って行くと、とある木立の下に古い、くちはてたような一脚のベンチがあった。僧侶達は、そこに腰を下ろして何事か熱心に話し合っていた。華やかな緑と金とが、なお暗い地平線にかかっていた。が丘の円屋根は、次第に孔雀色の緑から、青い色にかわって行った。清い宝玉でもちりばめたような星は次第にその数《すう》を増して行った。ヴァランタンは無言のうちに、警官達に合図をして、枝のしなだれかかったその木立の影まで忍び寄った。彼は死のような沈黙の中から不思議な僧侶達の言葉を、今はじめて明瞭にききとることが出来た。
 ヴァランタンは、一分半かそこいら耳を傾けていた後に、悪夢のような疑惑に襲われない訳に行《ゆ》かなかった。彼は二人のイギリスの警官達を、何の目的もなく、無駄にここまで引張って来たのかもしれなかった。なぜなら、二人の僧侶の話は、普通の坊さんの話と何の違いもなかったからだ。相当の学識をもってゆっくりと、そして信仰深げに、何か神学上の神秘について話していた。エセックスの坊さんの方が、かえって言うことが単純で、円い顔を星の方に向けたりした。もう一人の方は頭《かしら》をた
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