て私が勘定の多いのをお見せしようとすると、すっかり面喰いました」
「どうしたんだね」と質問者が言った。
「さあ、私は誓ってもよいんですが、はじめたしかに四|志《シリング》と書いたのに、はっきり十四|志《シリング》となっているんです」
「なあるほど」とヴァランタンが叫んだ。そして身体《からだ》をゆるゆると動かしたが眼は異様に光っていた。「で、それから、どうしたね?」
「ところが門口の坊さんときたらすましているんです。『いや、それは失敬。余分のところはこの窓で埋合わせをつけるよ』[#「』」は底本では「」」]と言うんです。『なに窓ですって?』と聞き返しますと、『わしが、こわそうという分《わけ》だよ』と言ったかと思うと、持っていた洋傘《コウモリ》で、あの通り破ったのです」
 三人の警察官は一斉に叫び声を上げた。警部は呼吸《いき》をはずませて「では発狂者を我々は追跡してるんかな」と言った。給仕はこの馬鹿げた話を更に大袈裟に話し出した。
「私はもうまるで呆気にとられて、何とする業《すべ》も知りませんでした。その間に坊さんは表へ出て、あの角を曲って連れの坊さんのあとを追って行きました。それからバロッ
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