家にかえって寝るばかりだろうじゃあないか?」ヴァランタンは、転ぶように料理屋へはいって行った。一行はまもなく、ささやかな食卓で、おそい昼食《ちゅうじき》を喫した。そこでは破れ硝子の星形の穴を内側からよく見ることが出来たのだ。
「窓ガラスがこわれてるじゃないか」とヴァランタンは、勘定を済ますと、給仕に向って言った。
「左様でございます」と給仕は小銭を数えながら答えた。ヴァランタンは少なからぬ心付をそっとそこへ加えてやった。
「はい、左様でございます」と給仕は言った。
「まったくおかしな出来事なんで」
「そうか、俺達に話してくれないか」と探偵は別に何心ない好奇心を装ってたずねた。
「はあ、坊さんがお二人お見えになりまして」と給仕は言った。「二人とも近頃来たらしい外国の坊さんですが、安直なお弁当をお上りになると、一人の方《ほう》がお勘定をなさいました。そして先に出て行きました。もう一人の方《ほう》がちょうど出て行《ゆ》こうとしていました。お金をしらべてみると、勘定の三倍もございます。『ああ、もしもし、これでは多すぎます』と申しますと、坊さんは平気で『ああ、そうか』と言うんです。『へえ』と言っ
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