かくも転げるように飛び下りた。見ると、ヴァランタンは勝ち誇ったように、左側にある家の窓を指さしていた。それは金ぴかの宮殿のような構えの料理店の正面になった大きな窓だった。そこは立派な晩餐のための特別席で、『御料理《ごりょうり》』という看板が出ていた。この窓は外の窓と同様に、模様入りの曇りガラスになっていたが、氷を破ったように、ぽっかりと大きな穴が、その真中にあいていた。
「さあ諸君、とうとう手懸りがあった。[#「あった。」は底本では「あった」]あの破れた窓の家《うち》だ」[#「」」は底本では「。」]とヴァランタンは、ステッキを振り廻しながら叫んだ。
「何ですって、窓が手懸りですって?」と警部はいぶかしげに言った。「ハハア、何か役に立つ証拠でもあるんですか?」
ヴァランタンは竹のステッキを折らんばかりに癇癪をおこした。
「証拠だって」と彼は叫んだ。「何ってこった! 証拠をさがしてやがる! そりゃあ君、何の役にも立たないってことだって二十回に一回はあるさ。だが、では、一体ほかに我々にどんなことが出来るんだね? 我々はいかにあてにならないような可能性だって、それを追求するか、さもなけりゃ、
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