いでしょうに」と言った。
「その通り」ヴァランタンは落付いて言った。
「行先《ゆきさき》がはっきりしていればね」
「へえ、それでは我々は一体どっちへ行《ゆ》くんですか?」と驚きの目をみはって巡査がたずねた。
 ヴァランタンはむずかしい顔をしながら、しばらく巻煙草をふかしていたが、それを口から放すと、彼は言った。「君がある人のすることを知っているなら、前に行けばいいんだ。また何をするか当ててみようというんなら、その人のあとについて行くんだ。その人が道を外《そ》れたら、自分もそれる。止ったら止るんだ。その人のゆっくり行く通り、君もゆっくり行くんだ。そうすれば、君は、その人の見るものを君も見るし、その人のすることを君もすることになるんだ。問題は、何か奇妙なものにしっかりと目をつけるにあるんだ」
「一たい、どんな奇妙なことなんです?」と警部がたずねた。
「奇妙なものなら何でもいいんだ」とヴァランタンは答えると頑固に口を噤《つぐ》んでしまった。
 黄色い乗合馬車は、ゆっくりと、北部の道路を何時間も走り歩いた。大探偵はもう何にも説明しなかったし、その助手達は自分の役目について無言の疑惑を増して行っ
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